#9 企業向けブロックチェーンの特徴と不正から守る技術 〜Scalar深津CEO × ACV村上〜

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本稿はアクセンチュア・ベンチャーズが配信するポッドキャストからの転載。音声内容の一部をテキストとして掲載いたします

アクセンチュア・ベンチャーズ がスタートアップと手を組み、これまでにないオープンイノベーションのヒントを探るポッドキャスト。グローバル・テックシーンを見つめてきたITジャーナリストの松村太郎をナビゲーターに迎え、旬のスタートアップをゲストにお招きし、カジュアルなトークから未来を一緒に発見する場を創っていきます。

分散型(非中央集権型)アプリケーションのコア技術となるブロックチェーンですが、我々コンシューマがメリット享受する仮想通貨や NFT といったアプリケーション以外に、ビジネスにも応用が浸透しつつあります。元々は軍事ネットワークだったインターネットが個人間で情報をやりとりされる媒介となり、やがて商業ベースで企業側取引にも利用されるようになった歴史を彷彿させます。

ブロックチェーン技術は果たして仕事に使っても安全なのでしょうか。高い信頼性を有する独自のデータ管理技術をベースに、分散データベースシステム「Scalar DL」やトランザクションマネージャー「Scalar DB」を開発・提供する Scalar の共同代表を務める深津航(わたる)さん、Accenture Tune シニア・マネジャー 村上仁(ひとし)さんに話を伺いました。(ポッドキャストの一部をテキストにしてお届けしています。(ポッドキャストの一部をテキストにしてお届けしています。太字の質問はすべてナビゲーターの松村太郎さん)

ポッドキャストで語られたこと

  • ブロックチェーンをビジネス上で使うときに注意すべき点。
  • 各国でそれぞれの環境に適合したブロックチェーンを使ったユースケース。

大学で教えていると若い人は分散系だ、Decentralizedっだ、DAOだという話をしますが、ビジネスの文脈でブロックチェーンを使う上での壁にまだ気付けていないのかなという気がします。

深津:基本的な技術があってその上に成り立ってるものなので、何が特徴で何がトレードオフになるのかを理解した上で、どのようなユースケースが適合するのかを判断する。仮想通貨のようなコインは確立しているユースケースです。ただ一方で、例えばパブリックブロックチェーンを使うとコンソーシアムあるいはパブリックになったときに、ガス代の変動だとか、コンソーシアムを組むために数千、数万のノードが作れるかが考慮しなきゃいけないポイントなのですが、ここが抜けるとアタックを受けた時にひっくり返ってしまう。こういった部分がビジネススキームを作るときに結構ハードルの高い領域だと思います。

例えば 51% アタック(ネットワーク全体の採掘速度の51percent以上を支配することで、本来不正な取引が正当なものとして承認されること)を防ぐための方策として、どんな仕組みを入れれば良いですか?

深津:2つあります。すごくシンプルに言うとブロックチェーンを使わないのが1つ。確率的合意がパブリックブロックチェーンの宿命なので、パブリックブロックチェーンを使うのであれば数千数万のノードが実際に稼働しているネットワークを使うのが一番安全です。独自のネットワークを使うとアタックを受ける可能性があります。アタックを受けるか受けないかは、そこにある価値とのトレードオフになります。

過去の事例だと、モナコインは 51% アタックを食らってひっくり返った事例です(2018年5月)。ノード数がそれほど普及していなかったので、通貨価値が出た瞬間に狙われました。

一方で企業システムだと、プライベートブロックチェーンまたはコンソーシアム型が議論されます。この場合はビザンチン故障耐性(相互に通信し合うP2Pネットワーク上で、通信や個々のノードが故障、または故意に偽の情報を伝達する可能性がある場合に、全体として正しい合意が形成できるかどうか)を持たせるかが大きな問題になります。誰かが嘘を付いた場合、最低4つのノードを作って管理者を分ける必要があります。企業の中で管理者を分けて、お互いの利益が相反する状態を作らなければならない。これが作れるかがポイントです。

上手くいく例として分かりやすいのは、港湾です。東京港、横浜港あるいはシンガポール港みたいな港ごとにお互い競合しているがビジネス上は組める。こういうユースケースが作れるかどうかがプライベート、コンソーシアム型ブロックチェーンを作る時のポイントになります。コンソーシアム型の場合にはファイナリティ(決済完了性)があるので、覆らないという仕掛けができます。

我々がやっているビザンチン故障検知は、マスキングをやらなくてもいいので最低 2 つの管理ノードがあれば良くて、企業とそれを監査する会社みたいな持ち方ができます。このようなユースケースの場合は、検査データ不正防止あるいは証拠担保ができます。第三者に自分たちが記録したデータが正しいことを証明するための仕組みとして使えるものですね。

最近この領域だと例えばトラッキング付きのフィットの証明だとか、あるいは最近出てきている経済安保法で、物流トレーサビリティーが取りたい時に外部に証明するものとして向いてるのがビザンチン故障検知です。

実際の世の中でどのように活用され始めているのか、何か事例はありますか?

深津:知財の保全。中国の裁判は今インターネット裁判が主流です。訴訟の数が多いので、そもそも証拠を揃えてなかったら落とされます。ここには紙の証拠ではなく、電子証拠で出すルールがあります。電子証拠が改ざんされていないことを示す方法が争点になります。

アリババや中国メーカーはブロックチェーンを使っていますが、大量に文書があったときにブロックチェーンのスループットが限界に近付いてきていて、タイムスタンプも押せる数に限界がきています。これを故障検知の世界と合わせて証拠を保全して、外部に証明するユースケースが使われ始めている。

裁判所で流通してるのは驚きです。証拠能力としてブロックチェーンが有効になっているんですね。

深津:やりつつある、が正しいですね。

日本ではどうですか

深津:日本は証拠の採用ルールが裁判官の心証によって決まります。裁判官がどのぐらい技術に明るいかによるんです。

1 つ例を挙げると、電子署名が今日本では普及しています。実は意外と知られてないのは電子署名の有効期限です。一般的に 1 年から 3 年が有効期限になってます。有効期限 1 年だとすると、契約をして 2 年経ってしまったら技術的には電子署名は無効になります。その状態で裁判になれば、電子署名が有効ではないことを反証されて裁判に負けてしまいます。

期限切れにならないように更新してサインしてもらい直さないと危ないと

深津:企業システムの中で現実にできますかね?継続的な契約してる会社に3 年経ったんで、もう1 回サインしてくださいって言えますか?

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